宮脇修一『「好きなこと」だけで生き抜く力』・フリーランスデザイナ 大川リヱさんオススメ

おすすめ本 File 082
「20代の好きなことを仕事にしたいと思っている人たち」へ

大川リヱ

082sukinakoto「好きなことを仕事にしたいな…」
誰でもが、少なくとも一度ぐらいは望むことではないでしょうか。

私達が人生の中で少なくない時間を割いていくことになる「仕事」なのですから、出来れば好きなことがいい。それは自然な願いだとおもいます。

しかし、胸を張って「私は好きなことを仕事にしています」と言えるひとはそれほど多くないような気もします。だからこそ、なおさら「好きなことを仕事にしたい」と願うのかもしれません。

この『「好きなこと」だけで生き抜く力』は、老舗フィギュアメーカー「海洋堂」の代表取締役 宮脇修一さんによる本。海洋堂はまさに好きなことを仕事にしている人たちの集まり。たとえフィギュアに興味がなくても、「好きなことを仕事にすること」がどういうことかの一側面を知ることができる本です。

この本に沢山書かれている海洋堂の常識破りな独自ルールの根本にはすべて「好き!」の力が働いています。

例えば海洋堂はマーケティングを一切せず、当然そういったことをする部署もありません。それは、

お客さんにどんなものが欲しいか聞かずに、「おまえら、こんなすごいものつくった、買えやー」というのが海洋堂の考え方。(p.32)

であるから。

つまり、お客さんの好きなものをつくるのではなく、お客さんがみたこともないもの、好きになるもの、楽しいもの、欲しくなるものを僕らが産み出し、発信していきたいんです。(p.32)

マーケティングもせず、お客さんが欲しくなるものを産み出す……これはつくるものに絶対的な自信がなければ取り組むことさえできないでしょう。『「どやっ!」といえる商品をつくる(p.56)』ことができるのも、一重に模型が好きだから、誰よりも模型のクオリティに厳しいからなのです。

しかし、いくら好きでもそこは「仕事」。こだわりにこだわり抜くばかりではコストがあわない。「ホントはここをこうしたいのにな。こうしたらいいのにな」と思いながらそれでは売れない、サービスにできないという場面に私達も多く出くわします。そして「仕事だから仕方がない」と「判断」することも。

造形へのこだわりを突き詰めようとすれば、一年かけても完成しない。つまり、ビジネスにならないんです。(略)
自分の中の、ぎりぎりの落とし所まで作品の完成度を高めるために、みんな寝る時間や休みを削って働いています。それでも足りないのが、モノづくりの世界。(p.69)

寝る時間を削ってでも休みを削ってでも熱中できるのが「好きなこと」ですものね。「いやいや、それではタダのブラック!」……なのでしょうか?

他人の目から見れば100点でも自分の目から見れば90点(略)誰にもわからない10点のために原価がどんどん跳ね上がってしまうんです。その10点をあきらめれば、海洋堂はもっと儲かるかもしれません。しかし同時に誰もわからない10点の部分が、海洋堂を支えているとも言えるのです(p.70)

社員の「好き!」を利用して会社を大きくするのであればそれはブラックなのかもしれません。しかし海洋堂は、造形職人たちの「好き!」の思いと突き詰めたいプロ根性をサポートしているのではないでしょうか。

海洋堂がやらない「常識」は、マーケティングだけではありません。「社員教育」もしないのだとか。

牧場主のように、いい草を牧場に生やしておく。その草を食べてそだって、いい乳を出す者もいれば、食べて寝ているだけの者もいる。でも、食べて寝るだけに見えていた者が、3年後、5年後にものすごい力を発揮することもある。(p.64)

海洋堂には「好き!」という強烈な思いを持った人たちしかいませんから、つくるのは場だけでいい。これってすごいことですよね……。

ボーメさんという造形師さんは「もともとの造形力は凡人以下だった(p.71)」そうで、絵心もなく、「海洋堂の造形師として据えるには、社内から反対の声も(p.72)」そう。しかしフィギュアに対する愛情は人一倍であり、一心不乱につくり続ける能力が買われたのです。ただ「好き!」というだけで凡人以下のスキルしかもっていなかったひとが、芸術家の村上隆氏とのコラボレーションを果たし、アーティストとして世界に羽ばたいた。「好き!」のパワーをひしひしと感じるエピソードです。

また、私は海洋堂の名前は知っていましたが、子どもの頃に見たもの以外、アニメやマンガのことはほとんど知りませんし、フィギュアのような造形物はどちらかというと好きですが、その業界については全く知りませんでした。この本を読んで見るとこの業界、思った以上に厳しく、フィギュアマニアでもない私が「海洋堂」の名前 を知る程に認知されるには随分な苦労があったようです。経営も決して順風満帆の歴史ばかりではなく「チョコエッグ」や「リボルテック」を手がけた 後に5億円の損失を出すなど、非情に厳しい局面も。

やはり、「好き!」を仕事にするのは厳しいんだなと、そう感じざるを得ませんでした。「好きを仕事のしたいなあ」なんていうのはきっと海洋堂さんにとっては生ぬるい発言かもしれません。なにせたとえ仕事にならなくても好きを貫き通そうとすることで逆にそれを仕事にしていくような人たちですから。

海洋堂の方々の情熱にはその足下にも及びませんが、私にも何かに熱中をした時期というものがいくつかあります。仕事にするつもりもなく、ただただ熱中して、会社から帰ってすぐにとりくみ、夜中遅くまで眠い目をこすりながら続けていたことがひょんなことから今の職業になりました。

今の仕事が好きですし、この仕事でひとの役に立ちたいともおもっています。子どもの頃を思いだしては「結局好きなことにもどってきたな」と思う瞬間もあります。それでも、正直言えば「この仕事で一生満足だ」とも思いません。それは、私の今の仕事への取り組みが甘いのかもしれませんし、私がまだ一番熱中できる選択肢を見つけていないのかもしれません。40代にもなっているのにまだこたえはでていません。もうこんなオバサンなのにな……とおもうことがありますがこういったことに年齢は関係ないのかもしれませんね。

今の仕事に100%満足できているひとなんて、ひょっとしたらいないのかもしれません。できることは、今の仕事を大事にしながら立ち止まらずに働き続け、この本を読んで感じたような、好きを仕事にすることの厳しさも十分に理解しつつも妥協ナシに好きを貫き通す人生にあこがれて、いつか「これが出来れば何もこわくない!」そう思えることに出会ったり気付けたらいいなって思います。

20代の若いみなさんに限らず、好きなことを仕事にしたいとおもいながらもまだその好きが見つかっていないひと、好きだけど仕事になんかならないやとおもっているひとたちは一度読んで見たらいかがでしょう。きっと圧倒されますよ。

大川リヱさんのプロフィール

フリーランスデザイナ&ライター。
かつては、裏が白いチラシと色鉛筆さえあればそれだけでいい子どもでした。
今は、マウス、そして針と糸を手にしている時間がとても長い。

指先と目を酷使。
手をうごかすことがすきで、キレイな色がすき。文字を見るのも読むのも書くのもすき。