野村克也『野村ノート』・団体職員 いちまるなおと さんオススメ

おすすめ本 File 054
「20代の試行錯誤する人たち」へ

いちまるなおと

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 「なんか違うんだよなあ」という思いが強かったのは、20代前半から半ば頃。  
うまくいったり、うまくいかなかったり。うまくいかなかったり、うまくいかなかったり・・・。まあ、3歩進んで5歩下がるくらいの感覚。だんだんとわかるようになっていくのは、もうすこししてから。  
あのころ「野村ノート」があればよかったのに。  

野村克也は、通算試合出場数日本プロ野球歴代1位の記録を持つ名選手。5度のリーグ優勝、3度の日本一に輝いた名監督。そして、内省の人だ。  
「野村ノート」は、監督時代に選手指導のために選手たちに配った「野村の考へ」というテキストが元になっている。  

 

ちょっと乱暴にまとめるとこの本は、50年に及ぶ野球人生を、考え続け、実践し、試行錯誤した人が、その過程をすべて言語化した結晶だ。うーん、なんと濃密なことか。  
コツや勘みたいな、モヤモヤとしてうまく伝えられないものを「暗黙知」といい、それを言語化等して形を与え、人に伝えられるようにしたものを「形式知」という。野村さんは「暗黙知」を「形式知」にする権化だと思う。理論で言語化された「知の野球」のすべてが、とてもわかりやすく伝わる。  
思考の強靭さに驚く。いまでは当たり前となっている、投手の投球ゾーンを9×9の81マスに分割した「野村スコープ」や、スコアラーの活用など、野村さんが始めたものは数多く、それは「野球に勝つためにはどうしたらいいか?」という執拗な問いかけから生まれ、洗練されていったものだ。  
技術論はもちろん深く掘り下げられているが、個人的にもっとも興味深かったのは人間論、組織論の部分。一級のビジネス書としても読むことができ、ぽろぽろと目からウロコが落ちる。  

「人生と仕事は常に連動している」、
「考え方が変われば行動が変わる」、
「思考が人生を決定する」、
「褒めたり優しく接するだけが愛情ではない」、
「原理原点を見据えて実践指導する」

などなど、名言が溢れている。これらの言葉に、経験というバックボーンが説得力を与えている。  
そして、この本を一環して貫くのが「人間教育」の考え。人をつくる。人間としての基盤ができていることが必要条件なのだと語る。そして、リーダーについては「人間学のない者に指導者の資格なし」だ。  
堅苦しい本ではない、軽みがある。ちょっと斜に構えたご隠居のボヤキをにやにやと聞くようなたのしみがある。読みやすく、おもしろい。  
南海監督時代、頑固であまのじゃくな門田選手に言うことを聞かせるために、わざと正反対のことを言うエピソードなどは吹き出してしまった。    

あの頃、この本を読むことができたのならば、もっとスムーズに「わかる」ようになったんじゃないか、そう思わせる深みがある。  
何度も読み返したくなる。「おもしろくってためになる」、この本にぴったりのフレーズだ。  
もちろん野球ファンには絶対のオススメ。野球ファン以外でも良質なビジネス書としてたのしく読める。手元に置いておきたい一冊。

 

いちまるなおとさんのプロフィール

いちまるなおと  
団体職員