松田奈緒子『重版出来!』&里見蘭『ミリオンセラーガール』・書店員 内藤沙織さんオススメ

おすすめ本 File 016

「20代の出版業界ってどんな所?と興味がある人たち」へ

内藤沙織

016saori016saori2 皆さん、本はお好きですか? 

近頃、「業界本」や「お仕事本」といったものが、じみじみとブームになってます。

 本の何が素晴らしいって、自分一人じゃ経験できない知識を得ることができる知恵の実であるところです。特に「業界本」は、働かなくてもその世界を知ることが出来るし、同じ職業の人は自分とやり方を比較できるし、仕事「あるある」なんかで笑ったり泣いたり出来るし、楽しい読み物です。最近、色々な種類の「お仕事本」が出版されているのも、そういった需要が確実に増えているからだと思います。

 そんなわけで、面接を受ける前に、まずその職業を軽く知っておく為にも「お仕事本」は活用できる一冊です。いきなり新しい職業に挑むのは勇気がいるもの。まず水に入る前にシャワーで身体をならしておくようにこういった本を読んでおくのも、ひとつの知恵じゃないでしょうか。色々ありますが、私は本好きなので、あえてここは「本」についてか書かれた「本」をご紹介します!

 本は日々「出版」されています。ですが、その「出版された本」について詳しく知ってる者はごく一部ではないでしょうか。遠目から見ると給料も高いし敷居も高いエリートが華やぐ(ように見える)「出版業界」の世界。ところがどっこい(古い)。一冊の本が産み出されてから貴方の手元に届くまで、その裏でどんな濃密なドラマが繰り広げられているかご存知ですか?そこの貴方さま、いい「お仕事本」があるんです!

『重版出来!』と『ミリオンセラーガール』

 それがコチラ!
『重版出来!』(松田奈緒子著/小学館ビッグコミックス)と『ミリオンセラーガール』(里見蘭著/中央公論新社)。コチラどちらか一冊を読むよりは、両方読んだ方が知識を補填しあえるし、よりわかりやすいのでオススメです。表紙カラーも黄色でお揃いですし。
 どちらも物語ですが、取材を丹念に行っているので、出版社の内部事情を良く知ることができます。厚みも、ちょっとした移動時間や待ち時間の合間に読めちゃえるぐらいです。

<どんな内容なの?>
 『重版出来!』は、新米編集者の黒沢心ちゃんが、持ち前の元気と素直な心でヒット作を仕掛けて行く編集部チーム戦奮闘記。『ミリオンセラーガール』は、新米販売促進部部員正岡沙智ちゃんが、ハンソクチームや編集者、書店を巻き込み一人前の営業へと成長していく王道ストーリーです。
 ここで出版社豆知識。この作品内で出てくる「販売促進部(通称:ハンソク)」は営業とノットイコールだそうです。営業局という大枠の中に、販売部、販売促進部、商品管理部があり、販促は外回りの営業部隊のことだそう。書店への窓口兼切り込み隊長といった所でしょうか。その分け方は会社によって変わるそうです。「へえ~」と思わず言っちゃう雑学って、なんでこんなに興味深いんでしょうね。
 実は、この「ミリオンセラーガール」、担当編集者のTさんの実体験が作品に反映されているそうです。実際、登場人物のモデルとなった人物も存在するのだとか。だからでしょうか、この作品はキャラクターが魅力的で、読んでると心がほかほかしてきます。著者の里見先生の書店愛もビシビシ伝わってきて、書店員には辛辣な言葉も愛の鞭と捉えることが出来るでしょう。

「棚の隙間は本屋の恥部、怠慢の証です。わたしたちは空気を売ってるわけじゃありませんから」(ブックスあした押舟店 蒲田さんの名言)

         ひぇえ…!(汗)

  業界の抱える書店流通の問題やマイナス面なども言及されてますので、知っとくとベターです。決して、華やかなだけじゃない出版業界。イメージだけで入ると、即座にポッキリ心を折られかねません。どちらの作品も、最終的にポジティヴな形に収まってますので、厳しい展開が辛い方でも安心してお読みいただけます。

<オススメするポイント!>  
 個人的な好みで恐縮ですが、女性が好きです。特に、困難に負けないで輝く女性は大好きです。この主人公二人、黒沢心と正岡沙智はそんな美しい女性たちです。心ちゃんは、柔道選手としてオリンピックを目指していましたが、怪我の為その夢を諦めました。沙智ちゃんは、自身が店長を勤めていたアパレルショップが閉店し、ファッション誌の編集者の仕事を希望しますが、配属されたのは全然違う部署でした。男にも振られたばかりでまさに人生のどん底です。
 普通ならば、モチベーションが下がったまま腐って行ってもおかしくないのですが、前者は、持ち前の元気の良さを、後者は、持ち前の負けず嫌いを発揮し、新しい環境で活き活きと働きます。ここまでポジティヴになれたら幸せだろうなぁと思ってしまいます。
 二人がぶつかる出版業界を支える人々の苦悩と希望と“熱い思い”。その人間ドラマは業界のことを知らなくても楽しめますので、本を読んで是非ご体験ください。

<最後になりましたが、まとめ!>
 いかがでしたか!この本を読んで「面白そう!」と感じたなら、もう何も怖くない!と意気揚々出版社の世界に飛び込んで行けるんじゃないでしょうか。本に携わる仕事なら、書店員もオススメです。現場でお客様と顔を併せるのが一番多いのは書店員です。自分が仕掛けた本が売れていく様子を見る喜びは、味わってみないとなかなかわからないと思います。格別です。病み付きになりますよ。そちら、ご興味ありましたら『書店ガール』(碧野圭著/PHP文芸文庫)も是非オススメします。

 今回ご紹介した本は、あくまで氷山の一角です。他にも、“面白くてためになる”講●社のキャッチコピーのような本が、この世には溢れています。それと同じように、職業の種類というのも日夜広がりを見せています。これから更に色とりどりな「お仕事本」が出版され、書店の棚を賑わしてくれることでしょう。
もしかしたら、次にそれを書くのは、今これを読んでる貴方様かもしれませんね。

juumiri(編集注:イラストは内藤沙織さんが描いて下さったものです!)

 

内藤沙織さんのプロフィール

内藤沙織(ないとうさおり)

naito地方中小書店に勤める書店員。コミック担当。
漫画を“描いて読んで売ること”に日々喜びを感じる変な店員。
『藤早織(ふじさおり)』名義で 創作同人音楽ユニット「nagoyaka人(なごやかびと)」で絶賛活躍中。 

人から良く“Mゾ”って褒められます。
nagoyaka人オフィシャル http://fujisana.net/nagoyakabito.html
JACK鷲津駅前ブック館 https://ja-jp.facebook.com/jackbookkan